大学を卒業する時に普通に卒業式に出席するのでは面白くないと思い、考えた結果、黒の紋付はかま姿で参加することにした。
住んでいたアパートから大学までは親の車で送ってもらったのだが、車を降りた時に道路工事のおじさんが私を見て硬直していたのを覚えている。
友人たちにはこの姿で登場することは黙っていたので、かなり驚かれた。
そして夜の謝恩会の会場のホテルに迎えの車を手配しておいた。
センチュリーという国会議員とか大企業の社長が運転手付きで乗るような車である。
アルバイト先で仲のよかったおじさんが一役買ってくれた。
府知事だか市長の公用車を払い下げで買い取ったらしい。
おじさんは黒のモーニング姿で登場し、
「さぁさぁ ぼっちゃんどうぞ」
とドアを開けてくれた。
固まる周囲の学生たちをよそに車に乗り込み颯爽と帰途についた。
おぼっちゃんお嬢ちゃん大学なら珍しくない光景かも知れないが、庶民の大学なのでこういう演出は大変目を引く。
しかしまぁこういうお金持ちになりたいもんだが、庶民のままである。