福岡勤務だったころ、同じビルにグループ企業の建設会社が入居していた。
そこの社員は若い人たちの中にはまともな人もいるのだが、50代の社員はクセ者ぞろいで、たびたびトラブルを起こしていた。
中でも一番のクセ者はウエダさんであり、電話応対もむちゃくちゃで、給湯室の共用のタオルで顔を拭くとか、どこにでも歯ブラシを放置したりと、女子社員たちを震えあがらせていた。
ある年末の仕事納めの日に一本の苦情電話があった。
「支店長を出せ」
電話応対したイチカワさんは回答に窮するも、なんとか支店長に繋がずに防いだらしい。
あとでイチカワさんに聞いた話は次の通り。
電話をしてきた人が、交差点で信号待ちで停車していたら、前の車の運転手がタバコを投げ捨てた。
車を降りて、その男(ウエダさん)を注意すると、ヘラヘラしていて、まったく反省の色が見られない。
ウエダさんが運転していた車は、会社の車で「〇〇建設」と書いてあり、
そこの福岡支店に「お前んとこの会社はどうなっているのか、支店長を出せ」
ということらしい。
ところが「ウエダさん=支店長」という絶望的な状況のため、回答できなかった。
「『ポイ捨てしたその人が支店長です』って言えるわけねえじゃろ」
とイチカワさんが嘆いていた。
電話を掛けてきた人は、その後本社にも電話したらしく、年が明けて、懲罰動議が発せられ、ウエダさんは担当部長に降格し、電話応対したイチカワさんが支店長になった。
その後、ウエダさんは定年退職し、イチカワさんは取締役になっている。